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第237話『稲取廃病棟』vol③大地震でひとりぼっちの病院 [廃村さーくる]

「ギリリ・・・ギリリ・・・」

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 ボクと夕実ちゃんは恐る恐る廃病棟に残された階段を上っていく・・・

「せせせせせ先輩!? こここここの、この、か、かかかか階段って、踏み抜け落ちたりしませ、しませんかぁ!!!???」

 夕実ちゃんがボクの腕をぎゅっと掴みながら、そして目を閉じながら怯えたように問い詰めてくる。

「多分・・・大丈夫。家ってのはね、大黒柱と階段は一番頑丈に作ってあるものだから」

 そうは言ってみるのだけれど、そこまでは自信は無い。

 なんせここは、うん十年と雨ざらしだった訳だから・・・

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 昭和53年1月14日 伊豆半島南東部を中心とした、マグニチュード7.0の大地震が発生する。

 属に言う『伊豆大島近海地震』だ。

 世間的には忘れられている。もしくはそんなのありましたっけ?と思われるでしょうが、

 伊豆南東部に住まわれる年配の方々にとっては、未だに忘れることの出来ない災害だと思います。

 この地震により多くの人命が失われ、家屋の倒壊、そして地すべり・崖崩れなどによる道路損壊が発生。

 その道路損壊によるなれの果てとでも言いましょうか、その名残りが前回訪れた廃トンネルだったりします。

 元々あそこは国道でした。

 ボク達が今現在利用している135号線と平行するように存在していたのです。

 今回、訪れている廃病棟は、その旧国道と呼べる道の途中にあり、そして昔は目の前の相模湾を見渡せるような景色の良いところでもあったそうです。

 地震によりそのまま廃道となる旧国道。

 そして道を奪われた病院。

 いつしかその病院は廃棄され、山奥にひとりぼっちとなる訳なのです・・・。

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「わきゃ・・・です・・・。なんとか二階に辿りつけましたね先輩・・・」

 ・・・アンタ、ずっとオイラにしがみついてただけでしょうよ!

 華奢でスマートな夕実ちゃんには失礼だけれど、重りを背負って階段を上がった感覚ですよ・・・。しかも階段の踏み板に神経集中しながら上ったから、上りきった今、どっと疲れがこみ上げた。

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「あれ? あれれ? ここ・・・二階です・・・よね?」

 そう言って夕実ちゃんは階段を上りきったすぐの壁が壊れているところから外に顔を覗かせる。

 ボクもそれに連れて家屋の外に出向いてみた。

「・・・二階って言っても、わざわざ階段を上ってまで移動するような場所でも無いんだね。外から見たらゆるい坂程度だし・・・」

「ふつーに外から上がったほうが早かったみたいですね。怖がったのがバカみたいですぅ・・・。あははです^^;」

 壊れかけの階段を上る前まではあんなに緊張していたボク達だったのだけど、なぜだかこの取り越し苦労のせいで、少しばかりか緊張がほぐれたような気がした。

「じゃあ・・・行ってみようか。この先へ」

 そう彼女に告げ、カメラを構えて奥に進むことに・・・。

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 一階部分とは少しだけ違う顔を見せる廃病棟。

 炊事室と掲げられた先へとボク達は入ってみた。

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「これは何ですかね? 金庫?」

「う~ん・・・なんだろうね? 氷の塊を入れて保存する昔の冷凍庫とか・・・かな? よく分からないけど」

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「食器棚には、ふつーにお皿とか残ってますね」

「そうだね~」

 ここに訪れて一番に思ったことは「それほど荒らされてない」ことでした。

 廃墟マニアや、心霊スポットマニアなんかにゃ、わりと知られている定番中の定番スポットだ。

 ここに訪れる人も多いだろう。

 意外と簡単に来れる場所でもあるのに落書きやゴミの不法投棄とかは目立たない。

 心霊スポット的意味合いが強いからなのだろうか?

 恐怖心からなのか、触らぬ神に祟り無しってところなんだろうね。

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「かまど・・・ですかね先輩?」

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「みたいだね。ここで病院内の食事を作ってたってところでしょう」

 クレゾール(消毒液)が入っていそうな小瓶がなぜかかまどの上に置かれていたのが印象的。・・・そういえば、途中にも同じやつが結構残っていたっけ。

 茶色の小瓶をまじまじと見つめるボクを不思議に思ったのか、夕実ちゃんは、ねーねーねー先輩ぃ~と背中をツンツンとつっつき、次の言葉をボクに向ける。

「先輩・・・。この病院って何病院なんですか? なんかふつーの病院って感じがまるでしないんですけどォ・・・」

「うん。ここはね『隔離病棟』だったそうだよ。結核患者さんや、ハンセン病患者さんをここに隔離して治療していたそうだ」

 ボクの「隔離病棟」って言葉に、ギョッとしてみせる夕実ちゃん。

「感染症である病気をこれ以上広めない為につくられた病院なんだ。昔はどこの町にも割りとあったそうだよ。特別なものでもなんでもないんだよ。・・・ただ、それによる『差別』ってものは色々あったんだけどね。

それはまた今度お話するよ」

 ・・・彼女の顔が少し強張った気がする。そりゃそうだ。

 色々とやんわりと告げたところで「隔離病棟なんだよ」なんて言ってしまったら、誰でも躊躇してしまうでしょう。

「まあ・・・さっさと巡って終わらしちまいましょう」

 そう言いつつ、ボクは強引に彼女の手を掴み歩を進めるのでした。

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「竹がところどころニョキニョキしてて不気味ですよォ・・・」

 大した大きさでない病棟なのに、行く手を塞ぐ竹で思うように進めない。

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「!!??」

 ひとつひとつ小部屋を覗いていたボク達。その中でも夕実ちゃんはこのワラが敷かれたベットを見て、声にならない悲鳴を上げ、ボクの後ろへと隠れこんだ。

「・・・なんか・・・めちゃくちゃ怖いですぅ・・・」

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 ある意味、ネットや廃墟本で紹介されてる、ここの定番中の定番「ワラ敷きのベット」がこれです。

 雰囲気は満天。怖さ満々です・・・^^;

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 怖がる夕実ちゃんを抱えつつ、ボクは廊下の両脇にある小部屋を一通り覗いた。

 そして最後の一番奥の部屋に到着です。

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「い、い、いいいいいいい椅子が宙ぶらりんです。あわわ・・・・ですよ!? わきゃーーー!!!」

 いくら廃墟だからって、これはオカシイ。

多分これは、ここを訪れた廃墟マニアかなんかのイタズラだと思う。

 いくら忘れられた場所とはいえ、こういうのは良くないんじゃないかな。

 一通り周りを観察していたボクの背中を夕実ちゃんの指が、ツツツー・・・と何かを知らせるようになぞられる。

 ん?何よ?と振り向くと、ボクの後ろでほとんど目を閉じたままの夕実ちゃんが、ふと地面を指差しているのでした。

「ま、漫画がありますよ!? わきゃ・・・」

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 少年キング? そこには絵柄も雑誌名も古めかしい雑誌がバラバラに捨てられていた。

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「ここに居た患者さんとかの持ち物とかでしょうか・・・」

「う~ん・・・断言は出来ないけど・・・多分そうなんじゃないかな? わざわざ古い漫画雑誌をここに廃棄しにくる理由は無いでしょ」

 そう言って、辺りを見回してみると、古めかしい雑誌の切れ端が結構散乱していた。

 これが当時のままなのなら、そこからこの廃病棟の時間は止まったままなんだろうね。

 ・・・さあ、ここで行き止まりだ。

 実はこの病棟からさらに竹やぶを越えて上に行ったところに、病棟がまだまだあるのだが・・・

 そこに行ってみようかとは思ったのだけれど、ボクの後ろで今にも泣き出しそうな彼女を見ていると、とても言い出すことは出来ませんでした。

「じゃあ・・・さっさと帰ろうか?」

「はい。ああ・・・良かった・・・です。実はまだまだあるんだよ?なんて言われたら、人生で初めて、ピーーーしちゃおうかと思っちゃったくらいですからっ!」

 ピーーーの部分は聞こえたけれど聞こえなかったことにしよう。

 ボク達は行き止まりの部屋の壁の穴から外に出ることにした。

「最後に少しだけいいかな? ちょっとここから海のほうに出てみたいんだけど・・・」

「人にお願いする時って知ってます先輩? それと同等の対価を要求いたしますよ? 

こんな恐怖なスポットに連れてきちゃってくれたんですからね! それなりのほどこしを要求するでありますよー!」

「はいはい。じゃ・・・ちょっとだけ」

 ボク達は廃病棟を背にゆっくりと坂道をくだる。

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 昔はこの病棟と国道を結び付けていた小さな小さな道だ。

 今はマニアか、肝試しの観光客か、近くにある貯水施設の保安員くらいしか歩かない道なんだろうね。

 旧国道に突き当たり、左右を見回してみたけれど、すべてが藪に隠れていた。

 そんな忘れ去られた場所。

 それが今回の廃病棟と旧国道です。

 ボク達は再び廃病棟の脇を抜け、現在の国道である135号線まで帰った。

「さああーーーー先輩!!! いったい夕実女王様にどんなほどこしをしてくれるのですか? おほほー♪」

 観光バスやダンプがブンブン走り回る国道に到着するなり、めちゃ元気な彼女。

「ここまで付き合ってくれたお礼と言いますか、気分転換と言ってはなんなんですが・・・『河津桜』を見て帰りましょうか女王様☆ 多分、もう咲き頃だと思いますよ?」

「うむ。・・・・といいますか桜見たいですよー! わきゃー☆ あと出店で何かお食事なんかをゴチってくださいよ~^^」

「あいあいさ☆」

 そうしてボク達は廃病棟を後にし、稲取駅へと向かうのでした。

※ここまで読んでいただきありがとうございます^^

次回からは怖いのは一切無しです。コメディーでほのぼのです。

・・・多分ねw

【廃村さーくるシリーズ『稲取廃病棟編』】

第235話「稲取廃病棟」vol①地元にこんなんあったんだ!?

第236話『稲取廃病棟』vol② 廃墟=心霊スポットなんですかっ!?



 


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たかれろ

JPG17枚目・23枚目・26枚目にウォーリーがw
by たかれろ (2011-02-18 06:40) 

まめ

竹がにょっき!凄いですねぇ。
植物の生命力の強さを尊敬します。
by まめ (2011-02-18 07:02) 

リン

あ~そういう病院だったのですね?
ほんと何十年か前までは、そういう施設があったとききます。。
それに携わられた先生や看護婦さんが素晴らしいですね~。。。
でも、明るい時間帯の廃病院だから、ちょっと救われます(・_・;)
by リン (2011-02-18 07:46) 

ちょいのり

たかれろさんも好きだなあーw

by ちょいのり (2011-02-18 11:22) 

ちょいのり

まめさん、植物達のパワーって凄いですよね^^
ここもいつか飲み込まれていくんだろうなあ~。

by ちょいのり (2011-02-18 11:24) 

デルフィニウム

画像はじっくり見ないようにしました。ごめんね。
by デルフィニウム (2011-02-18 11:27) 

ちょいのり

リンさん、自分の実家の大きい病院も1974年くらいまでは、結核の隔離病棟とかでしたよ~^^
一般の人に解放されたのはボクが子供の頃だったりします。
案外、ふつーの存在だったのかもしれませんね^^

朝に出向いたのは、怖さ対策ですw
あと、なるべく誰にも会いたくなかったからってところですね^^

by ちょいのり (2011-02-18 11:27) 

スマイル

ちょいのりさん こんにちは
隔離病棟ってことば、久々です。
昔はよくありましたね・・・
こんな事実もあるんだと知りました。
ちょいのりさんならではのレポですね♪^^:
なんだか切ないような~
by スマイル (2011-02-18 11:30) 

ちょいのり

デルフィニウムさん、あんまり見ないほうがいいかもね^^;

文章だけでお願いしますw

まあ~それにしても今回のシリーズは苦手な人が多そうだから、アクセスがぐんと下がると思ってたけど、逆だったなあ~。
普段の倍以上。

どちらかというと、ソネブロ以外からのアクセスかな?

廃墟マニアは未だに多くいるみたいですねえ^^;
もしくは心霊スポットマニアかw

by ちょいのり (2011-02-18 11:32) 

ちょいのり

スマイルさん、せつないですよね・・・。
地震がなければ別の道でうまく使われていったのかも知れませんしね。
今回も実際に訪れることによって色々と勉強をさせてもらった気がしています^^

by ちょいのり (2011-02-18 11:35) 

ちょいのり

じゃあ~そろそろ

し ご と い っ て く る w

by ちょいのり (2011-02-18 11:36) 

もももんがが

はぁ~、怖かった・・・^^;
胃痛がしました。でも切ないですね・・・。

しかしワラのベッドは・・・、昔はそうだったんでしょうか。
見方によってはハイジと一緒。。。
by もももんがが (2011-02-18 15:11) 

yoshinorhythm

ちょいのりさん!
この階段あがったの??
ってか・・・。
マジでホラー全開っすね。^^;
でも歴史をたどると、何か切ない感じも・・・。
ここは昔、人の命を救う場所だったんですよね。

by yoshinorhythm (2011-02-18 15:23) 

ふぢた

すみませ~ん
オーヴが写ってるんですが・・・・
スルー??
おちっこでちゃう~
by ふぢた (2011-02-18 20:15) 

ねこじたん

隔離病棟とか 禎子だかそれ系的…
ホントに あった時期って そなんですよね…

by ねこじたん (2011-02-18 21:39) 

ちょいのり

もももんががさん、そういやどこかでも、ハイジみたい・・・なんてこと書いていたなあ~。
でもこんなハイジいやよ~^^;

by ちょいのり (2011-02-19 01:13) 

ちょいのり

yoshinorhythmさん、勿論、ギシギシと音を鳴らしながら上りましたよお~^^

酔っていたのと、興奮でそれほど怖くはなかったのだあ!

by ちょいのり (2011-02-19 01:15) 

ちょいのり

ふぢたさん、オーヴは気付いてましたよ~^^
まあ~でもこれこそホコリのなせる所業です。

・・・ただし、

赤いオーヴの場合はヤバイと思ってます^^;

by ちょいのり (2011-02-19 01:18) 

吟遊詩人41

ふう・・・終わりましたか。。。
明日からトイレに行けますわ^^
by 吟遊詩人41 (2011-02-19 01:19) 

ちょいのり

ねこじたんさん、ああ~確かに近代ホラー小説系ってわりとこの時代設定が多いのかもね^^

携帯も存在しないし、小説書きにはうってつけの時代ですから。
携帯は物語上、邪魔なことがおおいから^^

by ちょいのり (2011-02-19 01:21) 

ちょいのり

吟遊詩人41さん、どうもゴメンナサイですw

本来ならふつーの廃墟の予定だったんですが、

なんか色々とでちゃったみたいで、ホラーちっくになってしまいましたね^^;

ええ、次回からはほのぼのです☆

by ちょいのり (2011-02-19 01:23) 

デルフィニウム

ほのぼのチョイエッチ希望ww
by デルフィニウム (2011-02-19 11:34) 

ダブルトレイン

こ、怖えぇ・・・

ちょっとバイオハザード借りてくる
by ダブルトレイン (2011-02-19 17:18) 

下総弾正くま

生首見~っけΣ(゜Д゜;
…『少年キング』の1コマですけどね^^;

当時のベッドはクッション材に藁を使っていたようですね^^;
某軍〇島の端島病院にも同様のベッドが…Σ(゜Д゜;
立ち入り禁止区画なので、写真集で見ただけですが^^;
by 下総弾正くま (2011-02-19 22:19) 

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