2011この夏ボクは疎開しました本編②『秘密の共有』 [この夏ボクは疎開します]
『あの子達に普通の学校生活をお願いします』
---夏休みを間近に控えた6月の後半、 2人の転校生を迎え入れた。
小学校5年生の男の子と、6年生の女の子。
それぞれ学校で、保護者と子供さんと校長。そして私の4人で転入の面談をしました。
本来なら6年生の女の子の担任となる私でしたので、5年生の男の子の保護者様を交えた面談には私は居る理由など無いのだけれど、
事情が少々違っていたみたいなのです。
どうやら大震災での言われ無きイジメを受けた子達の受け入れだったようで、
今思うとおそらく・・・自分でも震災・原発問題に自意識過剰なんではないかと思ってしまう私を校長は横に座らせたのでしょう。
保護者様に転校に際しての説明を一通り。
次に校内の簡単な説明、通学路がどうだとかと、流れ的にお話をいたしました。
時間にして30分程度でしょうか。
普通なら後は地域の説明などをして軽く談笑して『では、〇日から宜しくお願いしますね』なんて言って終っていたのでしょう。
・・・でも違いました。
『子供にしばらく校内を見させてもよろしいでしょうか?』と、母親。
『どうぞ、かまいませんよ』と、校長。
子供にはツマラナイ話ばかりだったのでしょう。少し嬉しそうに出て行ったのです。
---すると
先ほどまでの淡々とした保護者様とのやりとりが、一変するのです。
その表情はじつに重々しい。
『原発問題にはなるべく触れないで欲しいのです』(女の子の母親)
『福島から転々と移住してきたことは誰にも他言しないで欲しいのです』(男の子の母親)
2人の母親にこう言われたのです。
『この事は、この場の3人の秘密ということでお願いいたします』と、やはり2人の母親からお願いされたのです。
ーーーイジメか。
しかも原発問題で・・・
人って言うのはなんでまたこう・・・弱い立場の人を創り上げ、そして攻撃をし、もてあそぶのだろうか。
大人も子供も同じくして。
教育者の端くれとして、人として、この子達を守り、そして闘おう。
---そうあらためて誓った。
ただ・・・原発問題に触れないでくださいとの切望には、
私は少し心のどこかにモヤモヤしたものを感じたことは事実ですーーーー
『日曜日で生徒はいないと思ってたけど、さっき男の子が廊下を歩いてたわね』
『え?・・・う、うん? ・・・そうなの?お母さん』
母親と連れ立って訪れた、これからの私の新しい場所。
前の学校でのイジワルな友達は今の時点じゃ居ない。
ううん。そもそもそんなの友達でも何でも無いじゃないか。
私の父親が電力会社に勤めてるという『たったそれだけで』私を輪から外し、離れていった同い年なだけ。ただの他人。
新しい場所で『ふつうに勉強して、ふつうに友達つくって、ふつうに遊んだりできるのかな・・・』と、そればかりを日々思っていた。
だからこそ少しボーっとしていて、お母さんの言葉に返事が遅れてしまった。
お母さんもそんな私を分かっているのだろう。
特にどうしたの?ボーっとしちゃってとも言わないでくれている。
『・・・でも日曜日でも学校のグランドとか普通に遊べるよ?お母さん』
『それはそうだけど、校舎内まで普通に出入りできるものなの?』
---そういえば・・・確かに自由にがっこーの教室に入れたりとかそういうのは・・・できなかったかも。
『あ、見て見て透子ちゃん。さっきの子戻ってきたわよ。渡り廊下に飾ってあるながーいお習字を眺めてるわ』
お母さん、長いお習字って・・・条幅のことでしょ^^;
その男のこを私は遠く見つめる。
地元の子なんだろうか?
・・・トモダチになることあるんだろうか?
この時の私にはまだ分からないーーーー
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