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第331話『2011 この夏ぼくは疎開しました』 ふくいちもんめ [この夏ボクは疎開します]

『勝~ってうれしいふくいちもんめ、負け~て悔しいふくいちもんめ、

 あの子が欲しい?

 いるわけないじゃん、ばっかじゃないの? きゃはははは!』

 ---まだ越してきたばかりのボクの周りで皆が笑う。

 理由は分かってる。

 でも・・・

 なんでボクが。

 そうだ、ボクが悪いんじゃない。

 あの3月11日から全てがおかしくなったんだーーー

このなつぼくは2.jpg

ふくいちもんめ2.jpg

ことわりがき.jpg

『賢治!賢治!? もうすぐ着くわよ、おじいちゃんちに。だから身支度なさい!』

 母親の大きな声で『うーん・・・』と起こされたボクは、声が大きいよ・・・恥ずかしいからやめてよ!と思ったのだけれど、

 このバスにはボクと母親しか乗車していなかった。

 寝ぼけ眼でバスから顔を外に覗かせると、

 そこに広がる景色は福島の海岸線をもっとちっさくしたような海が広がっていました。

『ここ・・・なんてとこ? お母さん』

『ここはね、・・・お、お父さんの実家のある静岡県は西伊豆の戸田ってところよ。今日から夏の間・・・ううん、もしかしたらしばらくここに御厄介になるのかもね』

 そう言ったあとの母親の顔はとても曇っていた。

 ボクも、胸に針を刺されたようにズキリと痛んだ。

 お父さん・・・お父さん・・・お父さん・・・

 その言葉はボク達二人にはあまりにもツライ言葉だからだ。

 3月11日のあの日、

 ボクは『お父さん』を失った。

 

 あの巨大地震発生後から3~40分後にボク達の町を襲った大津波で『お父さん』を奪われたんだ。

 別に漁師でもなんでもない。

 普通のサラリーマンです。

 地震の数週間ほど前に交通事故に遭い病院に入院していた。

 学校帰りにお見舞いに行っては『これもってけ賢治。うんまいぞこのメロン。まだオレは食ってないけど高そうだから美味い筈だ。あっはっは。

 持って帰って母さんと一緒に食え、な?』と、

 お見舞いに行った筈が逆に見舞いの品を貰ったりしたんです。

 心配したけど、心配させないお父さん。

 今思うと、もっともっと、もっともっともっともっと早く治っていれば、

 いや、交通事故になんて遭わなければ・・・

 --------あの日、あの時間、

 ボクは下校の準備をしていた。

 小さな揺れから始まった地震に、クラスメートが騒ぎ出す。

『たいしたことねえーぜ!』と、いつも悪ぶってる木下君が、周りのみんなに対して、へへへーんと堂々と仁王立ちをしてみせるのだが、

 それも少しの時間でした。ほんとに少しの時間。

 急激に波打つ机や椅子。まるで生きているかのように床を行ったり来たり。

 周りから聞こえてくる窓ガラスのバキバキバリンッ!という音!

 机の下に隠れたはずのボク達が、掴んだ机ごと床を左右に体を持っていかれる。

 近くから、隣や、その隣の教室から聞こえてくる女の子の悲鳴。

 ・・・死んじゃうのかな、ボク?

 と、さすがに思ってしまいました。

 -----4・5分ほどで揺れが収まる。

 泣きながら抱き合う女の子達。

 なぜか興奮しているボク達男の子。

『マジですげーな今の!』『やべーよ!』と、近くの男の子を見つけては話に盛り上がる。

 あんまり話したこともないヤツともなぜか喋りました。

 その後は先生の先導で皆、普段はお尻の下に敷いてるだけの防災ズキンを持って順にグラウンドへ集合したんです。

 そこからは皆で高台へと集団で避難をしました。※1

(※1 ここで避難経路を見誤った?学校もあったようですね。難しいところです。何しろ想定外でもありますし)

 津波を警戒する防災無線。青年団のお兄さんが呼びかける中、皆小走りに丘へ丘へと駆け上がる。

 おばあちゃんの手を取って必死に連れ立つお兄さん。

 後ろを見ると、車が渋滞しているのも見える。

 車から降り、走って高台を目指す人も。

 ---ようやく指定の避難場所に訪れた時、

 海岸線の向こうに見えたものはーーーー

 海岸線が白い壁のようにボク達のほうに近づいていた。

 飲まれていく家々、

 いつも普通に通ったり、遊んだりしている場所が、いつのまにか青や白から茶色に色を変えて、すべてを飲み込んでいく。

 高木さんちや、町田さんち、スーパーやお土産やさん、

 小学校も高学年になって最近やっと会員になったばかりのビデオのレンタルショップや、

 いつもいくコンビニ・初めて自転車を買ってもらった自転車屋さん、

 プラモデルをねだったあのおもちゃ屋さん、

 ーーーーああ・・・

 ああ・・・

 ああああああ・・・・

 あああああああああああああ!!!!

 ボクを含め、皆、見つめるしかなかった。

 こんなのどうすりゃとめられるんだよ!?

 悲しいキモチが起こるはずなのに、ただただ呆然とするしかありませんでした。

 ---えッ!?

 あ・・・

 そ、う、い、え、ば・・・

 呆然唖然と海の壁を見つめていたはずのボクの背中に霜柱がギッシリ付いたかのように、ぞっと寒気が走る。

『お父さんの病院・・・海の中・・・じゃ・・』

 お父さんの病院の方角を見るボク。・・・正直見たく無かったけれど、それでも確認をする。

『お父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 ーーーー津波はボクからお父さんを奪っていきました。※2

(※2 この物語の主人公はまだいいほうですよね。・・・いや決してよいわけではないのですが、それでも片親がいる。親どころか親戚一同、亡くなられた震災孤児も決して少なくありません)

 

 一家の大黒柱を失ったボクの家。

 それでも津波からの難は逃れることができたのです。

 ----でも・・・

 福島第一原子力発電所問題で全てを奪われる。

『目に見えない放射能の恐怖』に、お父さんが頑張って建てた家も何もかも・・・。※3

(※3 避難区域問題は折りに触れたいと思います。放射能問題は次記事かその次記事にて触れる予定です)

 ---そんなボク達母子に声を掛けてくれたのは、母方の実家でした。

『うちに来なさい。賢治君もこっちの学校に通うといい』と、

 おばあちゃんが都内近郊の県にボク達を呼んでくれたんです。

 しばらくはとても窮屈な息のつまりそうな避難所生活をしていたんだけど、

 友達と別れるのは寂しかったけれど・・・

 寂しかったけれど、

 福島原発の問題が明るみになってからのお母さんの行動はとても早かったです。

 ボクは都内へと引越しをすることになったのです。

 ---4月某日、

 ボクは母親に連れ立って小学校の転入手続きを済ませ、

 次の日から転校生として新たに学校生活を向かえることになります。

 ここが新しいボクの通う学校か・・・

 父親の死、そこにあるのに戻れないボクの家、見知らぬ土地での新生活、と、色々とあったわけだけれど、

 それでも前に進まなければいけないわけで。

 ---でもそこで、学校でボクを待っていたのは・・・

 イジメ・・・・でした。

お前どこからきたんだよ2.jpg

『お前、〇島から来たってマジ?』『放射能うつるよー』『こっちくんな!』

 ボクが何したってんだよ?

 ボクのどこがいけないんだよ?

 ・・・すごく悔しかった。

 ボクからお父さんを奪った津波や地震も殺してやりたいくらい憎かったが、

 こんなにも原発を呪ったことは無かったと思います。※4

(※4 これは実際にあった都内への避難区域からの移住者の子供達がうけたとされる放射能問題によるイジメのお話を書いてます。)

 ---ボクはイジメになんか負けたくない。

 もともと前に居た学校では自分が言うのもなんだけど、イジメられるような人間じゃなかった。

 なんでも文句を言うタイプでした。

 でも・・・ここは母親に素直に話したんだあ。

『じゃあ賢治、またツライ思いさせちゃうけど・・・引越しようか』

 ---そうしてボクが辿り着いたのが、ここ静岡県は伊豆の戸田というところらしい。

 お母さん曰く

『友達にどこから引っ越してきたの?って言われても、都内からですって答えればいいわけだから、大丈夫よね?』だって。

 確かに間違ってない。

 でも本当に住んでいた場所が名乗れないなんて、悔しい・・・。

 なんでそんなこと気にしてまで生活していかなければいけないんですか?

 悔しい悔しい悔しい悔しい・・・

 プシュー! オレンジ色のバス停の前でバスが止まる。

 ありがとうございますと運賃箱にお金をジャララと流し込んで、ボク達二人は、更に新しい土地へと降り立った。

 目の前に広がるは、田舎な港町。

 ふふーんだっ!

 オイラが居た町のほうが絶対都会だもんね!

 ・・・あんまり変わらない気もするけどさ^^;

 原発と放射能、ボクと少女の物語はここからスタートします。

 

 

ちょいのり・基本2.jpgえっと今回は、いつだったかに予告した『この夏ぼくは疎開しました』をお送りしたわけなんだけれど、

 ちょっとボクなりに、この未曾有の大災害である東日本大震災、

 特に原発問題を 子供視点で色々と考えて見ようかと思ったわけです。

うおっか姫1.jpg今回はアレね、放射能によるいわれの無い子供達の差別ってとこかしら?

ちょいのり・基本2.jpgまあそんなとこ。難しい放射能の話は抜きだよ。

 単純に放射能問題によって生活レベルでどういうことが起こったか?とかそういう感じね。

 このお話自体は地震発生時からそんなに経ってない時期に考えた、実際にあったいくつかのエピソードのオマージュなわけで、

 もうすぐ半年を迎えようとしている今ではだいぶ事情も変わってきた。

うおっか姫1.jpg今じゃ内部被爆問題やホットスポット、飲食にまつわる放射能問題とかたくさんあるわよね。

ちょいのり・基本2.jpgそこまではこのシリーズではやれないかなあ~。いや、追々そういう問題にも触れてみたいとは思ってます^^

 次回はいつ続きを書くか未定ですが、

 タイトル的には『電力会社の女の子』といったところです。

 この浜岡原子力発電所のある静岡県。

 そしてそこに属する静岡県は伊豆地方の小さな町で、主人公の男の子と、女の子が出会うことからお話は進んでいくと思います。

 そこで『子供視点の原発問題の食い違いの戦い』なんてのを書けたらいいなあーなんて思ってます^^

 ではではここまで長々と駄文を読んでいただきありがとうございました。

 興味がある方は気にして待っていてくださいね^^

 そうでもない人は、しらねーw

 


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2011の夏をボクなりに描いてみたいと思います^^ [この夏ボクは疎開します]

natm.gif

東日本大震災をボクなりに描いてみようかと思ってます。

一人の男の子を視点とした、現代では使うはずが無かった・そうなることは決して無かったはずの『疎開』と言うキーワードで。

不快に思われる方もいらっしゃると思います。

でも今一度、この年を忘れない為に、

あの日を忘れない為に。

これからのことも。

そして自分のために。








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