2011この夏ボクは疎開しました 本編③『ステーション・ブラックアウト』大熊みどりの独白 [この夏ボクは疎開します]
『正直、がっかりです』
私はお刺身が大好き。
子供の頃は生臭くてとてもじゃないけれど好きじゃなかった。
当時、回転すしが流行り出した頃でもあって、たまに連れて行ってもらえた回転すしには喜んだものでしたが、
食べるものと言えば『玉子』『かんぴょう』『納豆巻き』(キュウリはプラスチックみたいな草でも食べてるんじゃないかと思うほど苦手)
当時の親たちから見れば安上がりな省エネ少女だったかもですね^^;
家計に優しいネタばかりで。
・・・あ、そうそう。
ぐるぐる周ってるデザートとか眺めるのも好きだったかも♪
あれは私のだ!
でも、デザートなんて後にしなさい!なんて言われるものだから、2~3種類あるデザートの中からひとつだけ目ぼしいものを私のお気にと勝手に決め付けて、
他の家族さんの子供に取られまいーーー取られまいーーーと、ぐーるぐるの向こう側にいる子供の視線にドキドキしてたのはいい思い出かな。
・・・結局食べられちゃったけどね(や~ら~れ~た~とか思いましたよ)
そんな私でしたが、大人に向っていくにつれ、少しずつ生のお刺身に興味をもつように、
そして好きになっていくのです。
あれはマグロや白身も手巻き寿司でこなせてきた頃かな?
うん、確か高校生の修学旅行の御夕食。
まだまだタコとイカが苦手だったのですが、それが出てきちゃったんですよ。実にご登場でございます。
残してもかまわないのだけれど、他のみんなはふつーに食べてるじゃありませんか!
ううう・・・これは箸をつけないと。
---恐る恐る私は細切れにされたイカちゃんをワサビめちゃんこたっぷりつけて口に運んだのです(イカもなんか白いプラスチックみたいで、くちゃくちゃした食感でダメだった)
---!?
---あれ?
・・・なんで?
ど・ゆ・こ・と?
イカってこんなに甘味のある食べ物だったんですか!?
---私は、不思議と今までの嫌いを飛び越えて好きになってしまったのです。
それからはむしろお刺身・お寿司好き!って感じになりました^^
大人になった今、この辺ぴな土地。地方の都市部からも離れた漁村に教師として赴任したことには感謝しちゃってたりなんです。
そりゃ・・・最初は、すみや(ヤマハ系の静岡県の音楽ショップ)もファーストフードも無いと嘆いた一応の若者ではありますが、
目の前に広がるは駿河の海。
晩酌のお供には事欠かない。
イマドキの子供の扱いに四苦八苦、少ない同僚 や諸先生方からのプレッシャーにも四苦八苦、そして自分の不甲斐なさにストレスをためることもありましたけれど、
仕事から帰ってきてからの缶ビール数本とお刺身が私の一日を癒してくれたから明日もその次も頑張れる。そんな気がしてます。
---そんな教師一年目の春のある日、
『東日本大震災』が起きたのです。
地震や津波で多くの犠牲者を
そして生活の何かを色々と日本から奪っていった。
ーーー正直、日本というのは地震は当たり前。
大地震を経ては日本は繰り返し復興し、そして発展をとげる底チカラの目いっぱい詰まった人たちの集まりだと思ってましたよ。
強くて優しい国ですしね^^
・・・でも 、今回はそうさせてくれなかった。
中々立ち直りというものをゆるしてくれなかったように思います。
それはやはり『原子力発電所の事故』が原因のひとつになるのではないかと。
そんな折、6月の後半に我が校は2人の小さな転入生を迎え入れることに。
どちらも前の生活で『難があった』ようです。
私はそのうちの女の子の担任となったわけです。
『母親には震災や発電所問題に関してはデリケートなので考慮していただけないでしょうか?』と、優しく、
でもその目は実に真剣に釘を刺されたわけです。・・・が
そんな中、私は彼女の最初の登校日となった日の帰りの会の時間を大幅に割いて、彼女を含めたクラスメートに再び、
『原子力発電所問題』について触れてみたのでしたーーー
ガヤガヤガヤ・・・
1元目始業開始前 、教室のクラスメートがいつもよりざわめいているのが教室外からも分かった。
私の傍には転入生の女の子。
どこからか察しの良い子が情報を嗅ぎつけたのだろう。
恐らく新しい転入生の話題でざわついてるのだと予測した。
『可愛い子だったらなんでもいいっつーの ☆』
『だよなー!』
『男子ってばそればっかり。サイテー』
大きな声でみんなに話題をふってるのは、恐らく私の天敵『たけし君』だろう^^;
まあ・・・転入生って妙に期待してしまうところはせんせー否定はしないんだけれど。
私のそばで緊張しているのがありありと分かる透子ちゃんにはなんだか聞かせたくないデリカシーの無い言葉である。
私も少し緊張し、普段はガララと普通に開けるドアなのに、一呼吸間をおいてから教室に飛び込んだ。
『はじめまして・・・夜ノ森透子です。よろしくおねがいします』
私が黒板に書き上げた彼女の名前をバックに、緊張した面持ちで彼女は言葉を搾り出す。
あんなにざわついていた教室が一瞬しーーーーーんとなる。
ちょ、たけし君? いつもらしく何か言ってあげなさいよ!
沈黙は彼女に負担となりえると思った私はすぐさま言葉を続けた
『じゃあ、今日から新しいクラスメートが増えたわけだけれど、みんな仲良くしてやってね^^ わからないことはえっと・・・そうそう。学級委員のたけし君に聞いてね透子ちゃん^^』
『はい』
少し甲高い感じのお返事が彼女から返って来る。
席はどこどこねと指示し、改めてクラスメート総勢23人として私の授業、そして彼女のここでの新しい学校生活がスタートした。
---たけし君が少し大人しいのが不思議だけれど。
『みんな、お刺身大好き?』
帰りの会でのせんせーのお話ということで、私は唐突も無く皆にしつもんをしたのだ。
普通なら『え?せんせーいきなり何言ってんの?』と戸惑うところだろうが、
即座にたけし君が反応し、みんなの音頭をとってくれるからありがたい。
『おれんち、じーちゃんが漁師だぜ?刺身食えないなんつったら海に沈められちゃうつーの。・・・まあ、昔は苦手だったけどなw』
その他の子たちも大きな声では発言しないまでも、隣の子なんかと
『肉のほうがいいよなー』
『私、どっちも好きかも^^』なんて喋り出す。
---転入生の透子ちゃんはというとーーー
多少ぎこちない感じではあるけれど、隣の女の子の質問にウンウンと頷いてみせている。
『じゃ、今日はここからが本題ね。日本のお魚のほぼ半数が東北地方で獲られてるってのは知ってるよね』
『え?そうだったけ?』
『この前授業でやったでしょ^^;』
たけし君のおとぼけに、クラスメートもクスクスと笑う。
『養殖も日本では40パーセントも東北地方で占めてるわけなの。実に日本のお魚さんの台所ってとこよね。
・・・でも、この東北を含めた7道県は大震災によって甚大な被害を受けたのは、みんなも知ってる通りだと思います』
---ここでやはり場の空気が少し変わった。
子供といえど震災の影響はやはり気に掛けているのがわかる。
それもそのはず、この戸田地区は観光ももちろんあるが漁業で成り立っている地域だ。
誰かしら何かしら近くも遠くも漁業と縁の無い子はほぼいない小さな小さな区域だからだろう。
しかも折々、この6月を迎えようとした頃からようやく食品と放射能の問題が目に付くようになってきたそういう時期でもあったからなのかもしれません。
産地偽装やおコメの発言問題、セシウムにベクレルにと、子供の間でも流行っていた(本人たちは酷いことなんだと気にしていないのかもしれないけれど、俺のパワーは1000ベクレルだとか言ってはしゃいでる子を数人見かけたような気がします)
『うちのじいちゃんさあー、最近すげー気にしてるんだよなあ。魚が売れなくなるかもしれんなあ』ってさ。
『ああ、うちもさ、おとうが文句言ってたよ。汚染されてるって言われたら買う人も減っちゃうだろうし』
次々にクラスのみんなから声があがってくる。
『みんな、風評被害で静岡県のお魚が売れなくなっちゃうのは勿論困ることなんだけど、本当に大変なのは現地で被災された方達なのを分かってね。
漁船は流され、養殖も津波の瓦礫や汚泥の流出で壊滅状態。
それでもなんとか頑張って、再び海に出た方達も多いと聞いてるわ。
でも・・・放射能汚染問題で、せっかく魚が取れても買い手が付かないとかひどいものらしいの』
『じゃあさ、どうしたらいいの?せんせー』
・・・え?
私は単純な質問にどう答えていいのか言葉に詰まってしまった。
タダ単に、今回は被災された地方の漁業と、この地域の産業である漁業を重ねて、子供達に 放射能汚染を問題として提起し、食に対してのありがたみをうんたらかんたらと考えていたのだが・・・
正直、答えは無い。
ピタリと放射能汚染が今止まったところで、今までの汚染が無くなるわけでは無いし・・・
どうしようもできないが本当なら正解なんでしょう。
『なあせんせー、どうしたらいいんだ?』
追い討ちのように単純で非常に重い言葉を投げかけられる。
『そ、そうねえ・・・とりあえず放射能汚染が完全に無くならないと、いつまでたっても何も変わらないのかも^^;』
『じゃあ、おれらにゃ無理じゃん。何もキニシナイデ魚食うか、選んで食べるしか選択肢は無いじゃんか』
事実、私は最近産地を昔より気にしながら食材の買出しをしていたりする。
そんな私が彼ら達を簡単に諭せる訳はなかったのですーーー
じゃっかん・・・中途半端に話を切っちゃいましたが、一応連載型ブログと言うことでご了承を(ホントは時間ありゃもうちっと続き書けるんだがな)
今週は時間の取れる限りは、2011この夏ボクは疎開しましたシリーズを書いていこうかと思ってます。
もう一年と時が過ぎちゃったのね。
そうだな。まあ~皆思うところがおありでしょう。あえてボクは震災についてはここでは多くを語らないでおこうと思います。
物語を通して、子供、もしくは若い教師の視点で去年の一年は『いったいどんな年だったのか』を書いていこうと考えてます。
ようやく主人公達が出会い、そこから進んでいくわけなんですが、
ネタバレにはなるけれど、過敏過ぎる一教師の発言で子供達に震災による原発問題が徐々に徐々に恐怖感をつのらせていくことになります。
結果的に静かに過ごしたくて引っ越してきたはずの二人の主人公に、この後・・・というような展開。
おもいっきしネタバレですやん
別にいいやん。大地震がもたらした人間模様を垣間見ていただけたらいいんじゃないかと思って書いてるわけなだけですし。
それにしても子供の単純な質問・疑問って、普段あれこれ理屈をつけてお茶を濁してやんわり答えようとする大人にはキツイ一発ですな。
ストレートが真実なんだよ。
子供の直球に、本当に真正面からミット構えて答えられるのが本当の大人なんじゃないのかな。
国会の質疑応答の場に子供達を呼んで質問させたいくらいだ。
たぶん・・・数いる国会議員さんで、子供達のストレートをまともに打ち返せる人間なんざ、ほとんどいないと思うよ。
勿論、ボクもしかりね。
ではでは、たけし君・透子ちゃん・大熊先生、そしてもう1人の主人公である『賢治君』は、この後いったいどうなるのか?
気になる人だけ見てくれればいいと思うよ^^
うーむ。ハードな内容ですね・・・・。(>_<)ガクガクガクガクガク・・・・。(((((>_<;)))))
by 大林 森 (2012-03-13 05:19)
いろいろな所でさまざまな影響がでている震災。
単純に原発をやめてしまうだけで本当にいいのか?
続けること、やめるこそそれぞれのメリット・デメリットを
真剣に考えているのかわからんお国でございます。
by まめ (2012-03-13 06:32)
子供達が 政治家に直談判したら
普通の顔で 大丈夫っていうのでしょうね…
子供に難しいことはわからない なんて思いながらね
最近の子供達って
政治家じいさん達より情報量だけは たくさん持ってるんじゃないかな とおもふのです
by ねこじたん (2012-03-13 07:11)
難しい命題ですねぇ...
みんなそれぞれ価値観も生活基盤も違いますから、
答えはひとつだけには限らないですからね
まずは、ひとつの問題提起として
皆がちゃんと考え続ける事が大切なんでしょね
by haku (2012-03-13 08:19)
本当に難しいです。
何一つ事実は報道されず、安全だから安心しなさいと言う。
これが混乱を招いている事実。
風評の一言で片付けられていますが、風評ではなく事実。
非難する人々や子どもたち、地元福島では「逃げた」と言われ、避難先では「こっちも被爆するんじゃない?」とふざけたやり取り。
避難する方は大きな決断をし不安100%で頑張ってるのにこんな仕打ちはないよね。。。
本当の意味での支援は違うんじゃないかと最近考えることが多いです。
まずは子どもたちのケアと直球ストレートの間違いの無い教育を望みたいです。
by レイリー (2012-03-13 08:46)
大人だってどうしたらいいのか
具体的にわかってないんですよね。
by サンダーソニア (2012-03-13 09:39)
最近の政治家見てると言葉はキレイだけど
ココロは汚れてる。。。
大人にもそういう傾向があると思う。。。
がぎんちょは大人みたいに言葉のプールが
すくないから、上手に表現は出来ないけど
確実に大人が心を揺るがせる思いを言葉にする
と思う。。。
大人ががぎんちょに教育されて動いてる気がする。。。
by yoshinori (2012-03-13 10:22)
こどもの言葉はそれでも大人の言葉の影響を受けている。先日こちらで、被災地女川の子ともたちに贈り物をしようと、当町の小中学生に何が喜ばれると思うかアンケートを取った。子どもらしい回答のほかに、
「お米、食糧、飲料水」という項目が含まれていて、そう思う子どももいるかもしれないなと苦笑いが漏れた。
子どもたちに心からの笑顔が戻るのは、何十年たったときかと胸つぶれる思い。自分の気休めに、支援活動を続けている。
復興の先が見えない状態で、原発の再稼働は論外。
この期に及んで、原発推進しようという予算を再生エネルギーの推進のためにまわせといいたい。
by さきしなのてるりん (2012-03-13 11:46)
ちょいのりさん、
2011この夏ボクは疎開しましたシリーズですね。
飛び飛びでも、非常に気になっていました。
誰も、逃げられない運命なのだけれど、
なにもかも捨てて逃げ出したい気分になる問題。
何事も、始めることよりも、やめることが難しい。
原発も、明日から、ハイやめたとは出来ない。
ちゃんと、ちゃんと、100年掛けて、ひょっとしたら1000年掛けて、止めなければならない。
止めるには、止める覚悟と、(止める作業を)継続し続ける忍耐がいる。しかも、ひょっとしたら何世代にもわたって。
ただ、これから、再開して続けるには、安全に保つ根性がいるだろうね。
原発の悪い面と、風評被害と、食生活への危惧と、全てが、
子供達目線で展開されるのだと思うと、気が重くなります。
実際に、今現在、福島に住む子供達や、そこから疎開した子供達には、
付きまとっている現実なんでしょうし。
何もしてあげられないけれど、頑張って欲しいです。
by kiyo (2012-03-13 12:54)
以前小学生の質問に答えず、違う話をしてごまかした某総理大臣をみて、びっくりすると共に、呆れてしまいました。
続き楽しみにしてます。
携帯電話…時代設定は迷ったのですが、今風にいくことにしました。
そしたら、音楽も今風にしないといけませんね
by 駅員3 (2012-03-13 14:33)
この問題は難しいですね判断が出来ないでしょうね。
by 馬爺 (2012-03-13 20:40)
私ね、このシリーズもすごーく続きが読みたかったよ。
アイコンで会話してる軽いノリのちょいのりさんも、
子どもの頃の思い出話も、廃村さーくるも大好き。
でも、こういうお話を考えてくれてる面があるんだなって、思った。
私のブログ記事で、いわきナンバーの車のお話書いたときのコメント、覚えていますよ。
by tomomame (2012-03-13 21:18)
「じゃあ、どうしたらいいの?」・・・これほどど真ん中ストレートな言葉はないと思います。
原発を抱える県の中心で、某万年野党が支持率、政権奪取のためとしか思えない「原発反対」のデモをやってましたが、じゃあ、原発反対のデモをすれば福島第一原発は完全に収束するのか? と、言いたくなりました。
今はそんなことよりも、原発を、被災地をどうするかが問題なのに…。
自分たちの利益、権益のために原発をいいようにネタにしてるような国会のセンセー方には、この剛速球は受けようともしないんだろうな…そう思ってしまう今日この頃です。
by 下総弾正くま (2012-03-13 21:33)
私は子供達のストレートな疑問に
今すぐ答えられないだろうなぁ。。
でも、彼らが大人になる前に答えをみつけて
あげられるようにしたいものです。
彼らが大人になって自分たちで答えを探す事に
なるのは忍びない。。。
by 銀狼 (2012-03-14 01:52)
子供の未来の影を与えてしまったことに
大人として責任がありますね。
これは自分の子供がいるいないは関係ないと思います。
by サンダーソニア (2012-03-14 09:21)
去年「東北がんばれ!」のキャッチフレーズで旅行に行かれた高齢の方のブログを読んで正直・・・私はチャリティをしました的な自己満足を感じました。
一部の観光地に自分の娯楽の為にお金を落としてもそれは支援ではないと思います。
震災による原発事故は原発周辺だけでなく日本全体に影響を与えたのに、少し離れた場所にいたから大丈夫と勘違いしてる方々が直接被害を受けた被災者の方々に「がんばって」って言うのは欺瞞を感じます。
綺麗ごと言ってるのは政治家だけじゃないと思います。
現実を直視できない大人は安易に「がんばれ」と言うべきでない、子供の言葉に答えられないのでしょうし(-_-)ニヤリ
by 吟遊詩人41 (2012-03-14 10:10)
ほんと難しい問題ですねぇ...
福島から離れてる所でも風評被害と、今後の食生活
今後は水だって・・・危ない!!
利害関係なく、一刻も早くやって欲しいですね~
by miwa (2012-03-14 10:24)
1年経ったけど今でもアレだもんね・・・
このシリーズは僕にとって大事なシリーズ。
いつもありがとう。
今日の地震大丈夫だった?
仕事中だったでしょ。
by DEBDYLAN (2012-03-14 23:00)
ごめんなさい.昨日niceだけ押して逃げちゃいました.
自分の子供に聞かれても,どう答えていいか判らないので・・・.素直にコメントできませんでした.
(地震は大丈夫でしたか?)
by 唐津っ子 (2012-03-14 23:44)